「5,000万円控除」と「代替資産の買換え」のどちらを適用した方が、不動産が収用された際、譲渡税が安くなるか、次の事例をご覧いただき、計算してみましょう。 【事例】 甲さんは、月ぎめ駐車場として賃貸していた土地(昭和50年5月に1,000万円で購入)を、平成19年2月に道路の拡幅事業により市に買い取られ、対価補償金として1億円を取得しました。 甲さんは、平成19年中に7,000万円で土地付アパート(木造2階建てのアパート/土地4,000万円、建物3,000万円)を取得しましたが、「5,000万円控除」の特例を適用するか「代替資産の買換え」を適用するか検討しています。 甲さんの譲渡税の計算について、「5,000万円控除」を適用した場合と、「代替資産の買換え」を適用した場合の2通りの計算をしてみましょう。 なお、計算の便宜上、譲渡費用はないものとします。 【5,000万円控除を適用した場合】 ①譲渡収入 1億円 ②必要経費 1,000万円 ③譲渡所得 (5,000万円控除後) ①-②-5,000万円=4,000万円 ④譲渡税(所得税および住民税の合計) 4,000万円×20%=800万円 【代替資産の買換えを適用した場合】 ①譲渡収入 1億円―7,000万円(代替資産の取得費)=3,000万円 ②必要経費 1,000万円×3,000万円/1億円=300万円 ③譲渡所得(代替資産の買換え特例適用後) ①-②=2,700万円 ④譲渡税(所得税及び住民税の合計) 2,700万円×20%=540万円 この事例の場合には、譲渡税を単純に比較すれば、代替資産の買換えを適用した方が、売却についての税金は安くなります。 しかし、代替資産の買換えは、「居住用の買換え」や「事業用の買換え」で説明したのと同様に、「課税の繰延べ」に過ぎません。したがって、単純な売却時の税金の損得だけで、どちらを選択するか決めているのではなく、買替資産を将来いつまで保有し続けるかを考慮して考える必要があります。 ちなみに、代替資産の買換えを適用した場合の取得費の引継ぎ価額は次の通りです。 1,000万円×7,000万円/1億円=700万円 土地の引き継ぎ取得費:700万円×4,000万円/7,000万円=400万円 建物の引き継ぎ取得費:700万円×3,000万円/7,000万円=300万円 以上から、アパート(建物)の実際の取得費は3,000万円ですが、税務上の取得費は300万円となります。そこで、木造アパートの耐用年数(22年)で減価償却費を比較してみると、代替資産の買換えを適用しなかった場合の毎年の減価償却費138万円(3,000万円×0.046)となり、代替資産の買換えを適用したほうが、毎年の不動産所得が約124万円多くなることになります。 その結果、毎年の所得税および住民税は124万円×税率(15%から50%までの累進税率)分多く発生することになるわけです。